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第72話 違う国の王子様

Author: 霞花怜
last update Last Updated: 2025-07-14 19:00:38

 時計を確認した國好が立ち上がった。

「そろそろ時間です。折笠准教授の研究室に行きましょう」

 理玖の白衣の襟の裏に、栗花落が小さな盗聴器を付けた。

「お話し中、俺は部屋の外で待機しています。何かあれば、突入します。向井先生や空咲さんが気が付かれた異常があれば、呼んでください」

 一介の警備員が理玖たちと一緒に折笠の部屋に入り込んで話を聞くのは無理がある。妥当な方法だと思った。

 第一研究棟の真後ろに第二研究棟が建っている。

 古くて小さい第一研究棟の倍以上の横幅で八階まである。学生棟よりは古いらしいが、それでも第一研究棟に比べたら遥かに新しい。

「難点は、学生棟を通らないと第二研究棟に行けない所だよね」

 第一研究棟の通用口は、第一学生棟と繋がる一か所だけだ。その通用口を通って、第一学生棟から後ろの第二学生棟を経由し、第二研究棟に入らないと、折笠の研究室に辿り着かない。

 近くに見えるのに遠い場所だ。

「第一研究棟の一階の北側にある非常口から出ると、近いんですけどね」

 晴翔が反対側を指さした。

 第一研究棟の北側の非常口を出ると、第二研究棟の非常口が目の前にある。そこから入って階段を昇る方がずっと近い。

 第一研究棟と第二研究棟の非常口は職員駐車場に隣接しているので、こっそり利用する職員も多い。その為、暗黙の内に夜間以外は開錠されている。

「本来なら非常口は非常時以外、施錠されているべきだよ。通ってはいけない」

 防犯の観点からも、日中の開錠はよろしくないと思う。

 晴翔が理玖の顔を覗き込んだ。

「あの非常口、呪いの研究室の真ん前ですもんね」

 ぽそり

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